プレハブ仮設退去いつ 岩手の被災者「見送るばかり、独りぼっち」
新しい住まいに移れるのはいつなのか−。岩手県沿岸では、40世帯近くが復興・創生期間の最終年度となる2020年度に入ってもプレハブ仮設住宅から退去できない見込みだ。次々と転居する住民を見送りながら、閑散とした団地で寂しさを募らせる高齢者もいる。
■区画整理遅れる
2月中旬、陸前高田市の滝の里仮設住宅。日課の朝の体操で集会所にやって来た無職中山ヨツ子さん(86)は広々とした室内を見渡し、苦笑いした。
「なんだ、きょうは1人しかいねぇのか」
自宅を津波で失い、長男家族と暮らして9年近くになる。市内に家を建てる予定だが、土地区画整理事業が遅れ、土地が引き渡されたのは昨年春。工務店も建築工事の注文が集中しており、地鎮祭を先日済ませたばかりだ。
窮屈な仮住まいを抜け出せるのは東京五輪が開かれる夏ごろになりそうだ。「引っ越しに追われて、オリンピックどころでねぇな、多分」とこぼす。
■集会所使われず
一時は86世帯が入居した滝の里の仮設住宅は被災者の退去が進む。市内の土地区画整理事業の宅地は1月末時点、高田地区で約9割、気仙町今泉地区で約8割が地権者に引き渡されている。
空き部屋が目立ち、集会所もほとんど使われなくなった。十数人いた体操の仲間が減ったのもここ1年のことだ。
ラジカセ操作が苦手な中山さんに代わり、体操の曲のテープを流してくれる60代女性は新居を建築中。来月末までには転居する。茶飲み仲間の95歳の女性は引っ越しの準備で最近忙しい。
「仮設を出られるのはいいことなんだけれども、見送るばかりで独りぼっちになっちまうなぁ」
4月に市内14カ所の仮設住宅が滝の里に集約され、自宅の完成待ちなどの事情で17世帯38人が残る見込み。あと少しの辛抱だが、中山さんは顔見知りがいなくなることが寂しい。
被災者を取り巻く状況は刻々と変わる。当初描いた再建計画が行き詰まり、身動きが取れない人もいる。
市内の仮設住宅に家族で暮らす理容業の男性(39)は、近くのテナントを借りて仮店舗でほそぼそと営業する。
■めど立たぬ資金
中心部の高田地区にかさ上げされた土地はあるものの「資金のやりくりが難しく、店舗兼住宅が建てられる見通しが立たない」とため息をつく。
津波で市街地は壊滅し、人口が急減した。客足は鈍り、売り上げも伸び悩む。金融機関のローンを組めるかどうかなお不透明という。
翻弄(ほんろう)されっ放しの9年間だった。震災翌年、店舗跡地近くに店を構えたが、かさ上げ工事で立ち退きを余儀なくされた。「こんなに仮設暮らしが長引くとは考えなかった。早くめどをつけて再建したい」と願った。
2020年03月06日金曜日
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March 06, 2020 at 09:28AM
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