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Wednesday, July 29, 2020

老舗理容店「住民の力に」 豪雨被災者を無料散髪 熊本・球磨 - 毎日新聞 - 毎日新聞

客の対応をする佐々木勝人さん(中央)とマス子さん(左)=熊本県球磨村で2020年7月25日午前10時50分、山口響撮影

 九州豪雨で壊滅的被害を受けた熊本県球磨村一勝地にある老舗理容店「佐々木理髪店」が被災者を無料で散髪して喜ばれている。店主の佐々木勝人さん(82)は幼い頃に病気で聴力を失って全く耳が聞こえないが、約60年、妻マス子さん(82)と店を切り盛りしてきた。「地域に支えられて長いこと店をやってこられた。住民の力になりたい」。その一心ではさみを握っている。

浸水を免れた佐々木理髪店。7月4日未明は玄関前まで水が迫った=熊本県球磨村で2020年7月25日午前10時43分、山口響撮影

 記録的豪雨に見舞われた7月4日未明、佐々木さんの店舗兼住宅の前を流れる球磨川が氾濫して濁流があふれた。高台にある佐々木さん方は浸水を免れたものの、周囲の多くの住宅や店舗は泥水につかった。

 佐々木さん方も玄関前まで水が迫っていたため、明るくなった後、更に高台にあるJR肥薩線一勝地駅に避難した。駅からは近所のなじみの商店が流されていくのが見えた。凄絶(せいぜつ)な光景に言葉を失い、ぼうぜんと見ているしかなかった。

 佐々木さんは3歳ぐらいの時に高熱に侵されて失聴した。父の太鼓に合わせて踊るのが好きな子だったが、その音が聞こえなくなった。熊本市に下宿して通ったろう学校で技術を学び、村に帰って佐々木理髪店を開いた。1960年代の最盛期には外にも行列ができるほど繁盛したが、村の人口減少と共に客は減り、被災前は1日数人になっていた。

 その店を長年支えてくれたのは常連の住民たちだった。耳が聞こえない佐々木さんは身ぶり手ぶりで客とやり取りして髪形などの要望を受ける。店を手伝うマス子さんがコミュニケーションの手助けをすることもある。

佐々木さんに散髪してもらいうれしそうな宮本柊ちゃん=熊本県球磨村で2020年7月26日午後0時48分、山口響撮影

 災害から3週間が過ぎた頃に来店した近所の宮本宣彦さん(64)は、開店当初からの常連。今回の豪雨で2階まで水につかった自宅の片付けに追われながら、保育園が再開する孫の柊(しゅう)ちゃん(4)の髪を切ってもらいに来た。「気持ち良く切ってもらえる。佐々木さんとは言葉の会話はできなくても、気持ちが通じる」と宮本さん。佐々木さんにはさみを入れてもらった柊ちゃんは、さっぱりした頭で「格好良くなった」と笑顔を見せた。

 豪雨で球磨村にある他の理容店3店舗は全て被災した。マス子さんは「常連さんだけでなく、他のお客さんにも遠慮なく来ていただきたい」と語った。【山口響】

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July 29, 2020 at 01:09PM
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