佐賀県内などに甚大な被害が出た昨年8月の記録的大雨から28日で1年になる。懸命に前を向き、仕事や暮らし、地域の再建に力を尽くす被災者の声を聞いた。
お客さんのと声が励み
武雄市の「井手ちゃんぽん本店」3代目 井手良輔さん(48)
国道34号沿いの店は、昨年8月の大雨で1メートル以上浸水し、厨房(ちゅうぼう)機器や畳などあらゆる物が使えなくなった。冷蔵庫や椅子が水に浮いた店内を外から確認したあの日、復旧にかかる時間と費用が真っ先に心配になった。
店は過去にも水害に遭っており、移転も頭をよぎった。だが、昔からこの場所に定着して多くの人に親しまれてきた店の雰囲気や味を変えたくないと、再開を決意し、従業員総出で復旧作業に取りかかった。
作業中、わざわざ熊本から見舞金を持って来てくれた人や、栄養ドリンクを差し入れしてくれた人がいた。周囲に助けられ、ようやく10月下旬に再開にこぎ着けた。告知していなかったにもかかわらず、再開初日は開店前から30人ほどが並んでいて、改めて店が愛されていると実感した。
苦難を乗り越えた一方、地域全体では飲食店が閉店したり、空き家が増えたりと影響が表れている。今後、水害のリスクを考えて新規出店者が減るのではないかという心配もある。
大雨から立ち直る途中で新型コロナウイルスが流行したため、街の活気は戻りきれていない印象だ。うちも一時休業を余儀なくされて客足が遠のいた。営業中、お客さんが帰り際に「頑張って」と声を掛けてくれるだけで励みになる。
大雨やコロナ禍でもどかしい日々もあったが、いろんな人のおかげで店を続けられている。街に活気が戻り「すごいな武雄」と思ってもらえるよう、ちゃんぽんで地域を元気にしていきたい。
「雨とコロナの二重苦」
佐賀市の「旬房」店主 工藤俊一さん(36)
あの日は店の中まで浸水し、しかも高さ40センチも漬かるなんて想像もしなかった。清掃と消毒で2週間休業した。2014年に開店し、ようやく軌道に乗り始めたころだったので痛かった。去年の教訓を生かして、ブロックで冷蔵庫をかさ上げし、土のうも自前で準備している。
記録的大雨の傷が癒え、客足が戻ってきたと思ったら、今度は新型コロナウイルスが流行し、ダブルパンチとなった。「第1波」の時は県の支援金でなんとか耐えられたが、7月からの「第2波」はさらに厳しい。客が一人も来ない日もあり、待ち続けるのは精神的につらい。周辺の同業者もみな苦しんでいる。
例えば、感染が増えれば夜間の飲食店は一斉休業し、落ち着いたら再開するといった対策が取れないだろうか。客の安心にもつながるはずだ。行政も知恵を絞ってほしい。
「排水用ポンプ増設を」
大町町の行政相談委員 田中廣行さん(79)
自宅が建つ大町町福母の下潟地区は、三方を六角川に囲まれた低地にある。大雨時は水が流れ込む“袋小路”だ。昨年は鉄工所から流出した油混じりの水に家が漬かり、2階からボートで救助された。少々の浸水には慣れていたつもりだったが、想像以上だった。
被災後は避難所などで生活しつつ、行政相談委員として活動した。被災者から生活立て直しなどの相談を受けたが、自分も被災しただけに相談者の心情が分かった。ボランティアや自衛隊など多くの人に支えられ、強く生きなければという思いを強くした。今年5月、同じ場所に自宅を再建した。死ぬまで住み続けたい。
地区には排水用ポンプが1台しかない。昨年の大雨時は油の流出を防ぐために運転を止めたが、後に故障した。次の災害に備えて増設してほしい。国と自治体が協力して取り組んでほしい。
「消えない水害の不安」
武雄市の「炉端ひより」店主 松尾伸次さん(42)
大雨から2カ月後の昨年10月下旬に店を再開できた。新規客も増え、売り上げは被災前を上回っていた。「さあ、これから」という時に新型コロナウイルスの影響を受け、今年4月からガクッと売り上げが落ちた。営業自粛を経て6月に再開したが、売り上げは再開前の約6割にとどまる。
店内と入り口には約1メートルの高さに線を引いて「ココまで」と書き、当時の水位を記している。あれから1年。普通なら「よく立て直した」と思うのだろうが、コロナ禍の今が大変で水害の恐ろしさや復旧の苦労を忘れかけるほどだ。ウイルスも自然災害も、人にはどうにもできない。
7月に発生した熊本県の豪雨災害は、雨雲が少しでも北に来ていたら佐賀も甚大な被害が出ただろう。今年もまた水害が起きるのではという不安はある。行政も今の対策で安心しないでほしい。
「助け合い精神が大切」
鳥栖市のたこ焼き店「たこ姫」店主 牧瀬 俊春さん(45)
店は昨年7月21日、鳥栖市や福岡県久留米市を襲った大雨で床から高さ約60センチまで水に漬かった。重さ100キログラム以上の冷凍庫は泥水に浮かんで横たわり、食材の大半を失った。
昨年8月の大雨でも店内は高さ約10センチまで水が迫った。過去2年で3回の浸水を経験したが、常連客たちが片付けを手伝ってくれたおかげで営業再開できた。災害時は自分から助けを求めづらい。ボランティアの大切さを改めて感じた。今夏も熊本県南部を中心に大雨被害が出た。約1週間後に知人らとボランティアグループを作り、会員制交流サイト(SNS)でタオルや長靴などを集めて被災地の高校に贈った。
災害はいつどこで起こるか分からない。「困った時はお互いさま」の精神が大切。コロナ禍で県外移動は難しいが、できる範囲でボランティア活動を続けたい。
(津留恒星、金子晋輔、米村勇飛、河野潤一郎、星野楽)
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August 28, 2020 at 04:00AM
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苦難乗り越え地域を元気に 佐賀大雨1年、被災者の声を聞いた - 西日本新聞
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