球磨川流域を中心に甚大な被害をもたらした7月豪雨を受け、蒲島郁夫知事は12年前に「白紙撤回」した川辺川ダム建設計画を一転して容認。流水型(穴あき)のダムを造るよう国に求めた。国土交通省は即、呼応。来年度予算案に調査費が盛り込まれた。
豪雨後の治水対策協議で軸となったのはダム建設。スピード感というより、むしろ拙速な印象を拭いきれない。熊本日日新聞社が被災住民を対象に実施した意識調査の結果を見て懸念が的中した。浮き彫りになったのは最も重視すべき住民の意向、いわゆる民意が置き去りにされている実態である。
ダム要望は4番目
調査によると、行政に取り組んでほしい施策で最も多かったのは「生活や事業の再建」で、53・0%と過半数を占めた。元の生活に早く戻りたいとの切実な思いが伝わる。「治水対策」は2番目で25・6%。最重点で取り組むべきは、やはり生活再建である。
球磨川治水に絞ると、望む対策は「宅地のかさ上げ・高台移転」「堤防のかさ上げ・引堤」「河道掘削」の順に回答数が多く、「ダム建設」は4番目だった。
ダムへの期待度は高くなく、ダムありきで治水対策を主導した国交省や県との認識の違いが際立つ。治水協議に加わった流域市町村の首長は、住民の要望を直接肌で感じていたはずだ。ダムに固執する理由の説明が求められよう。
知事は方針転換の理由に「民意の変化」を挙げた。12年前はダム不要が大半だったが、被災後、少なくとも3分の1は建設に賛成しているというものだ。今回の知事判断を「支持する」との回答は「どちらかと言えば」を合わせて41・8%。知事の想定に近い。
民意は動いたのか
しかし、「どちらかと言えば」を含めた「支持しない」は36・3%、「分からない・無回答」も21・9%だ。単純比較はできないが、知事が白紙撤回を決断した当時、流域住民の82・5%が支持したのとは落差がある。ずれが生じたのは、結論を急ぎすぎたためではないか。
建設の賛否を問う住民投票を「実施すべきだ」は「いずれ」を含め59・8%と、「実施すべきでない」(14・3%)を大きく上回った。流域治水を進めていく上で、住民の合意が得られていない点は今後の不安材料だ。円滑な事業推進の妨げになりかねない。
知事が11月19日、県議会でダム容認を正式表明した際、特に反省の弁はなかった。2008年の白紙撤回は半年間の熟慮の末、「球磨川そのものが守るべき宝」と決断したが、今回の容認は周囲があっけにとられるほど早かった。
被害の責任どこに
代替策とした「ダムによらない治水」が12年間にわたり全く進まなかったことの責任の所在は、一体どこにあるのだろう。
治水に深く関与していた国交省の責任はより重い。知事の白紙撤回表明の直前、九州地方整備局長は「ダムを建設しないことを選択すれば、住民に水害を受忍していただかざるを得ないことになる」と述べた。何としてもダム建設を進めたい気持ちの表れだったのだろう。しかし建設は中止に。治水の主導的立場にありながら不作為ともとられかねない12年間の姿勢と、関連はあるのだろうか。
治水対策協議で対立し、事業を後押しできなかった流域市町村の首長も責任は免れまい。
次のステージにやみくもに進む前に立ち止まり、きちんと総括すべきである。流域治水をどう進めれば最も効率的なのか、展望も開けてこよう。不可欠なのが、住民の要望を丁寧にすくい取り合意形成につなげることだ。果たすべき責任はそこにある。
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