福島中央テレビ
新型コロナウイルスに対処する医療関係者への偏見や差別が社会問題になったのはごく最近のこと。コミュニティに亀裂を生み住民同士が対立するこのような現象は今や私たちの社会の様々な場面で目撃されている。10年前に原発事故が起きた福島県では多額の賠償をもらった人とそうでない人の間に激しい軋轢と分断による「見えない壁」が生まれた。しかし、その軋轢は少しずつ解消されていった。福島の人たちが望んでいたのは対立ではなく、ただ穏やかに暮らすことだったからだ。
■「賠償金でパチンコ」市民に広がる偏見
2012年12月、福島県いわき市の公共施設に黒い塗料で「被災者、帰れ」という落書きが見つかった。前年に起きた原発事故で、故郷を追われ避難してきた人たちへの言葉だった。避難者と何の関係もない場所に書き殴られていた。 東京電力福島第一原発から約60キロの場所にあるいわき市は、この時、約2万4千人の原発避難者を受け入れていた。いわき市も地震と大津波で死者・行方不明者は468人、全半壊した住宅などが5万棟を超えるなど甚大な被害を受けた。そうした津波の被災者へは国から最大300万円ほどの支援金がでた。 一方、原発避難者は世帯の人数などによって数千万から1億円を超える賠償が東京電力から支払われ、いわき市に土地を見つけ、終の棲家にと家を建てる人が少なくなかった。市内の土地は震災前と比べ数倍に跳ね上がり、家を建てられなくなるいわきの人もいた。 住民が一気に増え、病院の待合室も混雑した。「仕事もせず、賠償金でパチンコばかり」「原発避難者の車は高級外車ばかり」。そんな言葉が避難者を受け入れるいわき市民の間で頻繁に出るようになった。
■津波被災者「同情できない」
いわき市の港町で60年以上暮らしてきた藁谷鐵雄(わらがい・てつお)さん(当時76歳)。かつてマグロ漁船に乗り、荒波を潜り抜けてきた海の男。がっしりとした体格に野太い声、クシャっと笑う「優しいおっちゃん」だ。 藁谷さんも自宅を津波で流されたが、再建費用は1千万円以上もかかり、断念せざるを得なかった。妻と愛犬と仮設住宅に身を寄せ、2016年からは5階建ての189戸が入る津波被災者用の災害公営住宅=永崎団地で暮らし始める。周囲の人たちと打ち解け、同じ被災者同士穏やかに暮らそうと団地の自治会長を務めた。
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