東日本大震災から10年がたった今年、地方自治の現場は新型コロナウイルス感染症との闘いに引き続き追われた。少子高齢化や人口減少、地域経済の疲弊も深刻化。難局のかじ取りを担う宮城県の市町村長は地域の負託に応えているか。住民や関係者の声を交えて検証する。
「乱世の男」「有事のリーダー」。2021年8月24日、大郷町長選の告示日。田中学町長(76)の第一声で、マイクを握った応援弁士の一人がこう呼ぶと、支持者からひときわ大きな拍手が湧いた。
町長選で田中町長は無投票で当選し、通算5期目を迎えた。県内の市町村長で最高齢。喜寿を間近にしながらも、バイタリティーあふれる言動は健在だ。
大郷町が大きな被害に見舞われた19年10月の台風19号豪雨災害を巡る対応で、存在感を発揮した。発生からわずか9日後、田中町長は試案として、被災集落の移転を打ち出した。
「誰もが途方に暮れている中、いち早く『こういう方法もある』と言ってくれて、心強かった」
氾濫した吉田川に近く、大きな被害を受けた粕川地区の中粕川行政区区長を務める赤間正さん(71)が振り返る。周辺の首長の間には「人脈が豊富で、決断力と実行力はずばぬけている」との評がある。
住民説明会やアンケートなどを重ねて被災者らの要望をくみ、軌道修正する柔軟さも見せた。移転と現地再建の2本柱で被災者の生活再建を進め、町内2カ所で21年度、被災者向けの宅地造成事業に着工した。
「発想が斬新で、対応や決断が速い」。町議会の石川良彦議長(69)は田中町長の政治姿勢に一定の評価をしつつ「トップとして言動の慎重さや計画性を欠く時がある」とくぎを刺す。
町民の間には苦い記憶がある。田中町長が3期目の07年度に着手した観光施設ファームガーデン・ワールド建設事業だ。町の第三セクター「おおさと地域振興公社」と共同で事業に当たる予定だった企業が資金調達できず、09年度に中止に追い込まれた。
「失政」と田中町長は批判にさらされ、09年8月の町長選で落選。現在の支持者の間からも「見通しが甘かったと言わざるを得ない」との声が聞かれる。
「世の中は日進月歩で、何もかも計画通りに進むものではない。状況に応じて見直しをかけるのが私のスタイルだ」と田中町長は言い切る。
ただ、町議会の答弁で感情的になる場面が今も珍しくない。強引な印象は拭えず、いたずらにあつれきを生んでいる感がある。
「かつての教訓や反省が生かされているか疑問だ」。大友三男町議(66)は町が進めるドローンを活用した産業振興などの先行きに懸念を示し「公金を財源とする事業は議会や町民に透明性を示し、慎重に進めてほしい」と注文を付ける。
(富谷支局・肘井大祐)
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