「被災者差し置いて…」心の傷、記事化おそれた消防職員 - 朝日新聞

　先輩の紹介なら仕方ないか。2月半ば、60代の男性はそう言って宮城県内の自宅に、記者を入れてくれた。東日本大震災で親族や同級生、同僚を失っている。ただ、男性を苦しめてきたのは、それだけではなかった。

　9年前、3月11日午後3時半ごろ。消防職員だった男性は、沿岸部に駆けつけ、住民を高い場所へと誘導していた。目の前で住宅街が波にのまれた。さらに、引き波であらわになった川底が第2波の襲来を告げていた。「まだ家に子どもがいます。助けてください」。泣き叫ぶ女性がいたが、目の前の人たちを助ける以外に選択肢はなかった。

拡大する元消防職員の男性は、仕事を辞め、症状が落ち着いた。ただ、海には進んで足を運ばなくなったという=2020年2月28日午前、宮城県内の自宅、小玉重隆撮影

　翌日、一変した街を歩くと、ひしゃげた家屋から次々と遺体が見つかった。外へ一人ひとり運び出し、「収容してください」とメモを残した。

　「もっと助けることができたのではないか」「あれは、自分が見捨てた人たちではなかったか」――。不明者の捜索が一段落した数カ月後、自問自答の日々が始まった。寝付きが悪くなり、職場でアンケートを受けると、精神科の受診を勧められた。「うつ病」と診断された。

語られてこなかった心の傷

体重が10キロも減り、苦しむ元消防職員。突然がれきに覆われた街が脳裏に浮かんできた元記者。震災の現場を経験した人たちのなかには、「もっと他に大変なひとがいる」と心の傷を抱え込んでいる人がいます。

　通院を続けたが3年後、めまい…

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March 09, 2020 at 09:12AM
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