Pages

Wednesday, January 6, 2021

生きる 被災者の「声なき声」を詩に 福島 - 朝日新聞デジタル

taritkar.blogspot.com

 福島市の二階堂晃子(てるこ)さん(77)の自宅に分厚いレターパックが届いたのは昨年11月。双葉町からいわき市に避難する姉の夫、いわゆる義兄からだった。

 原発推進派だった義兄は2年半前の夏、病気で倒れ、右半身が不自由だ。左手だけでワープロを使い、1年がかりで記した「本心」を託された。

 孫娘に語りかける形で、ふるさとや避難生活についてつづられていた。「口数が少なく、穏やかな兄がこんなにも激しく、喪失の人生を告白するとは」

 涙をこらえきれず、二階堂さんも詩に詠んだ。タイトルは「反吐(へど)」。

 10年の沈黙を破って/男は吐いた/反吐を吐くように吐いた/返せ ふるさと

 信じ切っていた 繁栄を/五重の壁の 安全神話を/未来のエネルギーの 夢を/共存共栄を/疑うことをしなかった 男の原発

 義兄が暮らした双葉町両竹地区の自宅は、二階堂さんの実家。福島第一原発からは約3・5キロだった。大学進学を機にふるさとを離れた二階堂さん。教員となり、飯舘村や浪江町などの小中学校に勤め、結婚後は福島市に落ち着いた。

 定年後の5年間、母を家族で介護するため、週2日は実家に通った。父が植えた40本以上の梅畑の香り。豊かな実りをもたらす温暖な気候。請戸港に揚がるカツオの新鮮さ。ふるさとの良さを再確認した。それを津波と原発事故が奪った。

 人生を狂わされた教え子や家族らの経験も詩にしてきた。

 待ちに待った避難指示解除を受け、帰還したわずか3カ月後に夫を亡くした女性。年を重ねて戻ったものの、畑を耕す体力はなく、生きがいを見つけられない男性……。

 「被害を受けた人の数だけ、苦悩や悔しさがある。お金をかければできるハコモノの『復興』や『絆、寄り添い』といった美辞麗句に覆い隠され、無かったことにされるのは黙っていられない」。詩集やエッセーを計4冊出版した。

 県内外で詩の朗読会や講話に招かれる。届いた手紙やはがきは大切にファイルに収めている。なかには「原発再稼働に賛成」と表明する人もいた。

 「考え方は人それぞれ。原発や被災地に無関心にならず、事実を直視する姿勢を持ち続けてもらいたい。そのために、見聞きした『声なき声』を詩で表現する使命が、私にはある」(力丸祥子)

Let's block ads! (Why?)


からの記事と詳細 ( 生きる 被災者の「声なき声」を詩に 福島 - 朝日新聞デジタル )
https://ift.tt/3pPNxPI

No comments:

Post a Comment