宮城県女川町の女性(79)はこの10年、地震で傾いた家を修理できないまま、不安の中でひとり暮らしてきた。9月末に町内の災害公営(復興)住宅に引っ越し、ようやく再建を遂げる。背中を押したのは「災害ケースマネジメント」という支援の仕組み。東日本大震災の被災地で取り組みが始まり、制度化を国に求める動きがある。
木造平屋の女性の家は、坂を上った所にある。津波は来なかったが、地震で軟弱な地盤が沈み、築約45年の建物がゆがんだ。外壁にヒビが入り、戸はうまく閉まらず、すきま風が入る。
震災直後、町役場に相談をしたが、「浸水していない」との理由で取り合ってもらえなかったという。
夫は震災前に亡くなり、月10万円の年金暮らし。町外にいる2人の娘には頼れず、修理費のあてはなかった。家屋の罹災(りさい)判定を受ければ支援対象になると、誰も教えてくれなかった。
「雨風さえしのげれば」と我慢してきたが、台風や地震のたびに「いつ倒れるか」と心細くなる。津波で被害にあった人が、きれいな復興住宅に入居してゆくのも見聞きした。
「私も復興したい」
3年前、そう言って頼ったのが、石巻市で活動する「チーム王冠」(伊藤健哉代表)。震災後、雨漏りの応急修理のボランティアを依頼した縁があった。支援制度のはざまでこぼれ落ちた在宅被災者の問題に取り組んできた団体だ。
女性には罹災証明書がなく、「被災者」としては復興住宅に入れないが、空き室に「一般枠」で応募できるのではないか。チーム王冠の伊藤さんがつてを使って調べたところ、答えはノー。公営住宅の建前で「持ち家があって住める人は資格がない」という。
自宅を処分しようにも名義は亡夫のまま。伊藤さんが弁護士や不動産業者を紹介し、相続や売却準備の手続きをとった。建築士に自宅を調べてもらい、床が最大1千分の24の角度で傾き、建て替えが必要な程度だということも確かめた。
建築士の意見書なども合わせて、女性は改めて入居を申し込み、今年8月末、当選の通知が来た。
アパート型の復興住宅の1階、2DKの部屋。女性は「住み慣れた家を離れるのは寂しさもある。でも新しい家で、前へ進まないとね」と話した。
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福祉、住宅など各分野の専門家らが連携し、取り残された被災世帯を探して訪問し、事情を聴き、必要な制度につなげる。こうした伴走型の支援手法が、災害ケースマネジメントだ。
チーム王冠の活動のほか、仙台市も民間団体に委託し、仮設住宅の入居者の再建支援に効果をあげた。東北被災地の例を参考に、2016年の熊本地震、18年の西日本豪雨被災地などでも取り組まれ、鳥取県は18年度から条例で恒久的な制度にした。
災害時の支援制度は複雑多岐にわたるうえ、多くは被災者自ら申請しなければならない。「お年寄りなどにとって、つまずきそうな手続きがいくつもある。伴走してゴールまで導く支援が絶対必要」と、チーム王冠の伊藤さんは強調する。仙台弁護士会の山谷澄雄弁護士は「被災自治体によって格差が生じないよう、国が法律などで制度化すべきだ」と話す。
全国知事会は今年6月、国への施策要望をまとめた中で、災害ケースマネジメント導入や財政支援の検討に触れた。各地の支援団体や弁護士らが共同で近く内閣府に要望著を出すほか、衆院選で各政党が公約に盛り込むよう求めている。(編集委員・石橋英昭)
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