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Thursday, March 10, 2022

被災者と言えぬ立場、ありのまま 盛岡出身の作家・くどうれいんさん - 毎日新聞 - 毎日新聞

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盛岡市在住の作家、くどうれいんさん=講談社提供 拡大
盛岡市在住の作家、くどうれいんさん=講談社提供

 東日本大震災で、津波が到達した沿岸地域で甚大な被害が出た岩手県。内陸にある盛岡市出身で、現在も盛岡で暮らす歌人で作家のくどうれいんさん(27)は2021年、震災当時に高校生だった女性を主人公にした小説「氷柱の声」を出版した。被災者とはいえない立場で「震災のことを話す資格はない」と思っていたという、くどうさん。それでも震災を主題にした小説を書き上げた理由を聞いた。

「がんばろう」「絆」に違和感

 <東日本大震災を主題にした小説「氷柱の声」。物語は、主人公の伊智花が高校2年生の時、盛岡市内で大きな揺れを経験した2011年から始まる。美術部員だった彼女は、被災地に「がんばろう」というメッセージを込めた絵を送る取り組みや、コンクールの審査過程で「希望」や「絆」を求められることに違和感を覚え、葛藤を抱える。物語では彼女がその後の10年間に岩手、福島、宮城で震災を経験した人たちと出会い、震災を見つめていく姿を描く>

 地震が起きた時、私は盛岡市内の高校1年生で、被災県の在住だけど被災者とはいえない、そんな立場でした。他県の人から「頑張って」「つらかったでしょう」と言われたけれど、ライフラインが止まったくらいで、自分は何も失っていない。(津波のあった)沿岸の方の話を聞くと自分が申し訳なく思えてしまう。いつか、このやり場のない気持ち、もどかしさを書きたいと考えていました。

 6年ほど前から、3月には日記を付けるようになりました。断片的に震災当時のことを覚えていても、時系列だったりその時の感情だったり、うまく思い出せなくなっていることに気付いたからです。日記を付けることで、あの頃の気持ちの流れ、体験したことを書きたいという気持ちが自分の中にあることは認識していました。ただ、自発的ではなく、誰かに背中を押してもらえなければ書けないと思っていたところに、出版社の方たちから声をかけてもらい、書く決心がつきました。

「……」を作品に

 これまで震災に関する作品に触れることに勇気や覚悟がいり、手を伸ばすことができませんでした。被災者ではない人が震災の話をすることに、厳しい目を向けている自分もいました。

盛岡市在住の作家、くどうれいんさん=講談社提供 拡大
盛岡市在住の作家、くどうれいんさん=講談社提供

 「言うほどではないんだけど……」「たいした被災はしていないけど……」。前置きをしないと、なかなか震災の話ができなかった。この「……」の部分を作品にしたいと思いました。

 ずっと「自分は震災の時のことを話す資格はない」と考えていた。それでも書き上げてみて「話したいことはたくさんあった」と気付きました。「私なんかが」という前置きをせずに話してみたかったんだなと。

 執筆にあたり、岩手、宮城、福島の7人に取材をしました。以前から接点があり、震災に関する言葉が印象に残っていた人に声をかけ、改めて言葉の意味や経験を聞き直すような作業になりました。なるべくその時の会話のテンションや言葉の温度を再現できるように、相手の感情を脚色しないように心掛けました。意識しているつもりでも「答えを用意して話を聞こうとしている自分」に気付かされ、難しい作業でした。

 作品中に「聞いてほしかったんですよ、ほんとは、あの日のこと」「おれはずっと何かを言いたくてたまらないような気がする」「なにも失っていないのにどうしてこんなにも落ち込むのか」といった言葉があります。取材時に実際に聞いた言葉、その事実をありのまま書きたかったのです。

 この作品を書いて、「震災もの」という「くくり」はないんじゃないかと感じるようにもなりました。その時どんな立場で、どこにいて、どういう経験をした人であっても、みんな何らかの形で震災を経験した。今の私たちの生活はすべて「震災」から続いているものではないかと考えています。

 読んだ人から「自分も同じような思いがあったけれど、葛藤を言葉にできなかった。作品の中に言いたかったことがあった」と言われ、書いて良かったと思いました。

「忘れない」と言えない人たちがいる

 「氷柱の声」を書き切ることができれば、自分が震災によってどのくらい傷付いたのかや震災に対する気持ちがはっきりするんじゃないかと思っていました。でも変わらないことの方が大きかった。「忘れない」という声に押されて、「忘れられない」「忘れたい」と思っている人が発言しにくくならなければいいなと思います。まだ話せないという人が大勢いて、「忘れない」とは言えない気持ちを抱え続けている人がいる。この作品をきっかけに自分のことを話し始めることがあれば幸せなことです。そういう声を聞ける人でありたい。

 この作品を書いたことで、震災のことを考え続け、他人や自分に対して一方的に「物語」を求めることの問題性に自覚的でありたいと思っています。

【聞き手・構成、日向米華】

くどう・れいん

 1994年生まれ。高校3年生の時に全国高校文芸コンクールの短歌、小説、詩の3部門で優秀賞を受賞。大学在学中にエッセー集「わたしを空腹にしないほうがいい」を自費出版。その後は会社員をしながら、エッセー集「うたうおばけ」や短歌集「水中で口笛」など分野をまたいで執筆活動を展開し、中編小説「氷柱の声」は第165回芥川賞の候補作となった。

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