寄付された車両を被災者に無料で貸し出す「日本カーシェアリング協会」(宮城県石巻市)の取り組みが、全国に広がっている。2014年の開始以来、実績は17の災害で延べ2200台を超える。7月の記録的大雨に見舞われた大崎市から、9月の台風15号で被害を受けた静岡市にボランティアで車両を運びながら、石巻発の支援の意義を考えた。(報道部・坂井直人)
大崎から静岡へ、記者が運搬体験
車を各地に運ぶボランティアは「架け橋ドライバー」と呼ばれる。ドライバー募集を伝える弊紙記事で参加を思い立った。
返却車両が集まる旧大崎市中央公民館で10月30日、スタッフに免許証を示し、災害支援用の高速道路通行証をもらった。ガソリン代は立て替え払いで、帰りの交通費は自己負担する。
仙台市宮城野区から車を取りに訪れた嶺岸正義さん(65)は「片付けのような力仕事は難しいけれど、運転は好きで私に合っている。帰りは富士山周辺に寄りたい」と教えてくれた。
記者が届けるのは03年3月初度登録のトヨタ自動車の小型車「ヴィッツ」で、走行距離11万8798キロ。14年から石巻市の住民たちや大船渡市のNPOなど5カ所に貸し出され、計4万キロ以上走ってきた。
持ち主だった京都府京田辺市の元教員渕上はるみさん(69)に電話で聞くと、定年退職まで11年間通勤を支えた車。バッテリーを交換したり、ヘッドライトをきれいにしたりして協会に託した。「足があれば、皆さん助かると思って」。約600キロを無事に運び、期待に応えねば。
大崎から自宅のある仙台市に移動し、翌31日午前7時半に出発。サービスエリアで休みながら約9時間後、静岡市葵区の常葉大静岡瀬名キャンパスに着いた。駐車場には宮城のほか佐賀、熊本、新潟、静岡ナンバーの車が十数台あった。
台風の被災者「ほっとした」
豪雨で静岡市内の住宅被害は床上浸水約4300棟、床下浸水約1600棟に上る。協会は車両約70台を集めたが順番待ちが130人。利用を最長2週間に制限せざるを得ないという。
運んだ車は翌日、同市清水区のエステ店経営片平幸子さん(60)に渡った。自家用車2台が水没し、中古車市場の高騰で新車を注文したものの納車は12月。協会に予約後、レンタカーなどで3週間しのいできた。
職場から約20キロ離れた中山間地に住む片平さんは「車がないと生活が成り立たず、ほっとした」と胸をなで下ろした。
今の被災者支援制度は住宅の損壊が基準。車を失っても自己責任で被害実態すら分からない。だが通勤や通院、災害ごみ搬出など生活に切実な問題で、支援がどれほど心強いか知った。
東日本大震災規模の災害でも車で困らない社会をつくるのが、協会の目標だ。代表理事の吉沢武彦さん(44)は「災害が立て続けに起こると車不足が深刻で、被災者のニーズに十分応えられていない。個人や企業、団体が問題と向き合い、社会全体で対策を講じる必要がある」と訴える。
仮設住宅のように一時的な車利用の仕組みを整えたり、豪雨が予想される場合に事前に避難できる場所を設けたり…。考えられることはいろいろあるはずだ。
[日本カーシェアリング協会]東日本大震災をきっかけに2011年7月に設立。寄付車両を活用し、被災者らに貸し出す「モビリティ・レジリエンス」のほか、地域住民が共同利用する「コミュニティ・カーシェアリング」、災害時返却を条件に低価格で賃貸するなど「ソーシャル・カーサポート」の各事業を展開する。車両は約720台に上る。佐賀県武雄市に九州支部も開設。災害時の迅速な対応を目指し宮城県、石巻市など8自治体や企業13社と連携協定を結び、さらに増やす方針。連絡先は0225(22)1453。
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