ロープにつるされた「立入禁止」の文字。その奥に見えるわが家を見つめながら、川崎祐輝さん(36)はつぶやいた。「絶対に伊豆山に帰る。その気持ちだけが支えだった」。周辺には屋根や擁壁が壊れた住宅や、空き地が点在し、あの忌まわしい記憶を思い起こさせる。それでも家族全員で伊豆山での生活を取り戻したい-。その思いがもうすぐ実現しようとしている。
災害関連死を含め28人の命を奪った熱海市伊豆山の大規模土石流から間もなく2年2カ月。被災地はその間、原則立ち入り禁止の警戒区域となっていた。9月1日、その規制がようやく解かれる。
逢初(あいぞめ)川中流部に立つ川崎さん宅は、土石流に押し流されてきた建物が直撃して半壊した。以来、川崎さんは隣町の神奈川県湯河原町のみなし仮設住宅で両親や愛犬と避難生活を送りながら、自宅の修繕を進めてきた。
もともと祖父母世帯と一つ屋根の下で暮らしていた。しかし、県が負担するみなし仮設の家賃の範囲内では家族5人とペットが住める物件がなく、苦渋の選択で祖父母とは別居することにした。被災前は一人でバスに乗って買い物に出かけていた祖母は環境の変化で軽度の認知症になったという。「一日も早く一緒に暮らして支えなければ」。切実な思いが日増しに強まる。
破壊された外壁や泥だらけになった床の修繕はほぼ終わり、10月初旬に帰還できる見込みだ。川崎さんは安堵(あんど)の表情を浮かべつつ、こう語る。「周りの道路や川の復旧が進んでいない。帰還できても不便な生活が続くだろう」
市によると、18日現在、112世帯200人が避難生活を送っている。このうち、9月中に警戒区域内への帰還が想定されるのはわずか7世帯13人。ライフラインや道路などの生活環境が整わないため、本年度中の帰還も19世帯39人にとどまる見通しだ。
川崎さんの近所に自宅が残る小松こづ江さん(73)も年度内の帰還が困難な一人。ライフラインは復旧するものの、半壊になった自宅前の道路整備が進まず、損壊した土台の修繕もままならない状況が続く。道路の用地買収と整備に少なくとも1年、自宅の修繕を含めると帰還は早くて2年後。「家はどんどん傷むし、帰りたくても帰れない。精神的におかしくなりそうだ」
子どもの頃から住んできた家に一日も早く帰還したい。これまで市に何度も復旧復興の進捗(しんちょく)を尋ねてきたが、一向に先が見通せない。「あまりに時間がかかるようなら、帰らない選択肢もある」。悲しげな口調で胸の内を明かした。
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熱海市伊豆山の大規模土石流の被災地に設けられた警戒区域が9月1日に解除される。避難生活を強いられてきた被災者の期待と不安、現地に横たわる復旧復興の課題を追った。
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