関西学院大(兵庫県西宮市)の学生14人が阪神大震災(1995年)の被災者らに聞き取りをした研究活動の成果を1冊の本にまとめた。書名は「五感でとらえなおす 阪神・淡路大震災の記憶」(関西学院大学出版会、税別1900円)。震災以降に生まれた世代が、今なお生々しく残る記憶や感情と向き合った。
社会学部の金菱(かねびし)清教授(災害社会学)のゼミに所属する4年生がまとめた。2年ほど前から聞き取りを重ね、「記憶に残りやすいとされる視覚以外に着目した場合、記憶はどのように残っているのか」を問い直した。
人間の五感に応じて6章で構成。「匂う」では、遺体安置所に広がる特有のにおいについて業務に携わった行政職員らの証言を基に、記憶の鮮明さに差があることを考察した。「聴く」では、犠牲者の声を参考に救命活動に従事した元救急隊員が今でも抱え続ける後悔や葛藤を取り上げた。
4章の「見えない」をテーマに取り組んだ吉川友貴さん(22)は、視覚障害者4人の証言を参考に震災を振り返った。全盲の男性が残していた日記には、屋根から瓦が落ちたりガラスが割れたりする音が響き渡り、「私の命は終わったと思った」としたためられており、「実際に見えているかのように書かれていた」と振り返る。
一方、別の視覚障害者は街並みを見ることができないため、周囲の人の声色の変化や、車に乗っている時の振動で路面が整備されているかどうかで復興の進み具合を感じていたという。吉川さんは「研究を通じて、晴眼者とは違う復興の感じ方を持っていることがわかった」と話す。
7日には神戸市立盲学校を訪れ、聞き取りに協力した教員の長尾隆一郎さん(54)に著書を手渡した。長尾さんは「若い世代の人が知られる機会の少ない視覚障害者の視点に関心を持ってくれたことに感銘を受けた」と語った。
金菱教授は「震災から29年という歳月がたっても、五感を通じることで記憶は色あせることなく立ち上がってくることに新たな発見があった」とゼミの活動を総括。「若い世代が今後起こり得る震災にどう向き合うか、この本から考えてほしい」と話した。【山本康介】
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