防災の専門家として、1995年に地元で起きた阪神大震災のほか、熊本地震や熊本豪雨の被災者を支えてきた室崎益輝[よしてる]さん(77)が3月、減災復興政策研究科長を最後に兵庫県立大大学院の教授を退官する。教壇は降りても、防災や復興を担う若者の育成は続けるつもり。「春からは縁の深い熊本にもっと通い、地域に根付いた活動をしたい」と意欲は衰えない。
昨年12月、熊本を訪れた室崎さんは、豪雨被害からの再建を模索する球磨村の神瀬地区や、熊本地震の被災者が暮らす益城町の災害公営住宅を県内の大学生と回った。被災者から不安の声や地域の将来像を聞くその顔は、常に柔和。半世紀近い研究人生では「復興や防災の教訓は、多様な現場と被災者の声の中にある」と確信したという。
阪神大震災では苦い経験がある。当時は神戸大工学部の教授。震災前、策定に関わった神戸市の地域防災計画は想定震度を「5の強」としたが、実際は震度7だった。「想定や経験は現実に覆される」。専門家として責任を痛感したのを機に、被災地を駆け巡るようになった。避難行動や建物の耐震、ボランティア、地域再生などさまざまな分野で現地を調査し、行政や住民へ提言を続けた。
2016年4月の熊本地震では、1週間後に現地入り。行政職員だけで建物の被災の度合いを判定することの難しさや、判定の線引きによって救済されず、困窮する被災者がいるという実情を問題提起した。西原村などで地域コミュニティーの再建に関わり続けるほか、熊本県立大では非常勤講師を約10年間経験。「熊本の人の温かさや地域の結び付きに防災のヒントももらった」と振り返る。
新型コロナウイルスの流行と重なった20年7月の熊本豪雨は地域外からの支援が制限されたため、インターネット上のクラウドファンディングで資金を調達。約2カ月で約690万円を集めると、地元の大学生を中心とした11の被災者支援団体に助成した。
熊本学園大社会福祉学部の学生団体もその一つ。「室崎先生らと関わることで、福祉や共助の在り方を考えさせられた。学内では経験できない社会勉強の機会を与えてもらった」と話す代表の山北翔大さん(3年)は、将来も被災者支援に携わっていく考えだ。
「ボランティア元年」と呼ばれた阪神大震災後、市民のマンパワーは被災者支援に欠かせないものになった。熊本での経験も踏まえ、「ボランティアは量だけでなく、質や支援者を支援する仕組みも重要な時代になってきた」と実感する室崎さんは、福祉や地域づくりを専門的に学び、行動力や発想力がある学生の可能性に期待している。「熊本でも、被災者や学生らと一緒に防災と復興の在り方を探り続けたい」(堀江利雅)
◇むろさき・よしてる 1944年、兵庫県尼崎市出身。京都大大学院時代の68年、神戸市の温泉旅館で30人の死者を出した火災で建物の構造や設備が被害拡大に影響したことから、防災研究を志した。神戸大教授、関西学院大災害復興制度研究所長などを経て、2017年から兵庫県立大大学院減災復興政策研究科長。防災に関わる国や自治体の委員も歴任している。
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