死者の力 高橋 原、堀江 宗正 著
東日本大震災後、津波被災地で幽霊話が多く語られた。被災地の霊的体験を扱ったテレビ番組や本は反響を呼んだが、証言の記録が中心で学問的なアプローチは少なかった。その霊的体験について、宗教学と死生学を専門とする大学教授らが被災者と宗教者に聞き取り調査を実施し、分析と解釈を加え、論考したのが本書である。
中では、被災地の「霊」について「身近な霊」と「未知の霊」に大別する。前者は友人や家族ら親しい人の霊で、心温まる体験になる。後者は正体不明の霊で、生者に存在を認めてほしいと訴えるかのように現れ、人を怖がらせる。宗教者に相談するのは後者で、宗教者はひたすら相談者の話に耳を傾け、時には供養や除霊を行う。
注目されるのは、都市から離れた岩手県A市と、仙台市に近い宮城県B市の比較。A市の人々は身近な霊との絆をかみしめ、未知の霊にも共感を寄せていた。一方、住民の地域との関わりが薄いB市の霊的体験の多くは未知の霊に関する怪談話だった。
著者は霊の真偽問題には踏み込まず、霊的体験について科学的根拠もなく本物の霊だと断言したり、単なる錯覚と決めつけたりはしない。全ての話を並列させ、それぞれに声を与える。その手法は霊的体験者の話を傾聴し続けた宗教者の態度に通じる。
大切な人を失った被災者を対象にした調査では故人が「心の中で生きている」が7割、「見守られている」や「仏壇や墓の前で会話をする」が各6割に上る。震災後、死者は生者を支えてきたのだろう。もっとも、被災者でなくても身内の死者に同様の感覚を持つ人は多い。死者は生者と共に生きる存在だということを実感させられる。
高橋氏は東北大大学院教授、堀江氏は東京大大学院教授を務める。(裕)
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岩波書店03(5210)4000=2640円。
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