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Friday, March 1, 2024

被災地の高校で卒業式 「東京へ」「地元で」それぞれの旅立ち - 毎日新聞

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卒業式で答辞を述べる石川県立門前高校3年の中角春香さん。涙で何度も詰まりながら「もしかなうのであれば、もう一度みんなと一緒に楽しく授業を受けたかった」と語った=石川県輪島市で2024年3月1日午前10時51分、大西岳彦撮影 拡大
卒業式で答辞を述べる石川県立門前高校3年の中角春香さん。涙で何度も詰まりながら「もしかなうのであれば、もう一度みんなと一緒に楽しく授業を受けたかった」と語った=石川県輪島市で2024年3月1日午前10時51分、大西岳彦撮影

 能登半島地震に見舞われた石川県立高校の多くで1日、卒業式があった。高校生活の最後の2カ月を避難に費やした生徒もいる。県外へ進学する人、地元に残る人。それぞれの夢を追って若者たちが旅立った。

 「個人的な話ができるのは、お前しかいないんだよ」。卒業式を3日後に控えた2月27日、同県珠洲(すず)市の県立飯田高校3年、川端健太郎さん(18)はつぶやいた。部活のウエートリフティングで培った体重150キロの堂々たる体格。同じ部活で汗を流した船章登(しょうと)さん(18)は「東京で活躍してほしいけれど、まずは友達をつくれよ」と励ました。こちらは体重55キロの引き締まった体形だ。

 同学年の部員は2人だけ。練習後はお笑い芸人の話題で盛り上がるなど、いつも一緒だった。だが、今年になって顔を合わせたのはこの日が初めて。元日の夕方、それぞれの自宅にいたところを激震に襲われ、別々の避難所に向かった。スマートフォンで互いの安否を確認しようとしたが、つながらない。「家の下敷きになっていないだろうか」と案じ続けた。

3年間過ごした飯田高の廊下を腕を組んで歩く川端健太郎さん(左)と船章登さん=石川県珠洲市で2024年2月27日午後1時31分、吉田航太撮影 拡大
3年間過ごした飯田高の廊下を腕を組んで歩く川端健太郎さん(左)と船章登さん=石川県珠洲市で2024年2月27日午後1時31分、吉田航太撮影

 避難所は寒かった。川端さんは、上着を何枚も重ね着して凍えながら眠った。倒れかかった住宅に入って中にいた人を助けようとした時に余震に遭い、死を意識したこともあったという。船さんは上着を着る余裕もなく「怖くて震えているのか、寒くて震えているのか分からなかった」と振り返る。互いに電話がつながったのは地震から5日目。「元気にしてるよ」「よかった」。ほっとして、いつものように冗談を言い合った。川端さんは富山市のホテルに2次避難する一方、船さんは自宅に戻った。

 川端さんは、重量挙げの強豪・法政大に進学する。2023年国体の少年男子102キロ超級で総合優勝しており、避難中も体幹トレーニングなどに励んだ。「活躍することで地域を元気づけたい」と決意する。

 一方、船さんは地元の郵便局に就職する。地元で毎年9月にある祭りに登場する巨大な奉燈(ほうとう)「キリコ」の担ぎ手を続けるためだ。みなぎる活気の中で、日々の忙しさを忘れて地域が一体となる。その一員であり続けたかった。町中の電線が垂れ下がったままではキリコが通れないのではないか、といった心配は尽きないが、「祭りを続けるためにできることはやる」と意気込む。

 川端さんは、急な体調不良で卒業式を欠席した。欠席を知らせてきた川端さんに、船さんは「ドンマイ」と返した。式後、船さんは「一緒に出席したかったな」と少し寂しげだった。

「希望持ち、一歩一歩前へ」

 同県輪島市の県立門前高校では、全3年生12人がそろって卒業証書を受け取った。それぞれが読み上げた答辞で、中角(なかかど)春香さん(17)は言葉を詰まらせながら、地震で失った日常に思いをはせた。

 3学期は一度も全員そろっての授業がなかった。中角さんは近くの避難所から通学したが、同級生の大半はオンラインでの出席。答辞で「もしかなうならもう一度、みんなで授業を受けたかった。震災前のあの日に戻りたいのが今の正直な気持ちです」と吐露した。

 保育士資格を取るため、親元を離れて県内の短大に進む。地元に戻って働きたかったが、変わり果てた町並みに気持ちが沈むこともある。「町は復興するのか」という気にもなり、働き口が多い金沢市で就職すべきかと悩んでいる。

 それでも、海や山が近く自然豊かな地元が好きだ。最後に、参列した後輩や地域の人々に力強く語りかけた。「みんなの人生はこれからも続いていく。希望を持って助け合いながら、一歩一歩前へ進んでいきましょう」【木谷郁佳、川原聖史、野田樹】

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