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Sunday, July 25, 2021

<東北の本棚>彼岸で被災者を見守る - 河北新報オンライン

taritkar.blogspot.com

小さな神たちの祭り/内館 牧子 著

 東北にゆかりの深い脚本家が、東日本大震災からの心の復興をテーマに小説を書いた。「あの日」が心に深く刻まれた私たちにとって、前を向けない日、喪失感に打ちのめされる時にそっと寄り添うような一冊だ。
 晃は宮城県亘理町のイチゴ農家の長男。家業を継ぐ気はなく、大学進学の準備で上京した日、震災に遭った。実家は津波にのまれ、祖父母や両親、弟は8年たっても行方知れずのまま。「生き残った自分だけが幸せになることはできない」という思いを抱えて暮らす。
 時とともに被災地は道路や住宅が再建され、町の形を少しずつ取り戻していく。都市部では震災が風化し、何事もなかったかのように日々が流れる。大切な人や思い出を一瞬で失った者にとって、心が置き去りにされたように感じるのは無理もない。「生き残った俺も、あの時死んだ」。晃のつぶやきが心に刺さる。
 仕事に挫折し、仙台に戻った晃を支えるのが恋人・美結。晃と心を通わせるが、家族との最後のやりとりを悔い、将来の展望を描こうとしない晃に距離を感じ、別れを告げる。そこに間を置かずに現れたのは、なんと晃の祖父が運転するタクシー。とある場所へ2人をいざない、運命を変えていく。
 突然この世を去った人たちが彼岸で変わらぬ暮らしを送り、この世に生きる私たちを温かく見守っている-。執筆の原点にもなったこの想像で、筆者の心が安らいだという。「あらゆる災害や事故に遭われた方々が、もしもそう思ってくださったら、こんなに嬉(うれ)しいことはない」。あとがきで筆者は鎮魂の思いをつづる。
 著者は1948年秋田市生まれ。母校の東北大で相撲部総監督を務める。本著は2019年に放送された、東北放送制作の同名ドラマの脚本を基に書き下ろした。(長)

 潮出版社03(3230)0741=1760円。

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