東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興に対する姿勢に疑問を感じざるを得ない。政府、与党は法人税とたばこ税の増税と併せ、復興特別所得税の一部を防衛財源に転用する方向で調整している。規模ありきで防衛予算を積み上げたつけが被災地に回された感は否めない。復興に水を差す結果を招かないか説明が必要だ。
政府は2023(令和5)年度の防衛予算を2022年度当初の5兆2千億円から6兆5千億円に増やし、2027年度時点で9兆円程度とする方針を打ち出している。増額分の財源の一つとして復興特別所得税に白羽の矢を立てた。あまりに唐突であり、被災地を置き去りにしているとしか思えなかった。
復興特別所得税は2013(平成25)年から2037年末まで25年間の時限措置として、所得税額に2・1%を上乗せして徴収される。年4千億円規模の税収の一部を防衛費に使う代わりに期限を10年以上延長し、復興予算は減らないよう考慮するという。
秋葉賢也復興相は「復興財源は満額確保する」と強調し、検討されているのは予算の転用ではなく、増税期間の延長だとしているようだが、すり替えにしか聞こえない。岸田文雄首相は本県と東北の復興なくして日本の再生はないとの見解を示してきた。どんな形であれ、復興予算に手を付ける必要があるならば、まずは自ら妥当性について説明を尽くすのが筋ではないか。
ウクライナ、北朝鮮、台湾などの国際情勢を受けた世論調査で、防衛力を強化する必要性に一定の理解は得られてはいる。ただ、復興も国策の根幹の一つであるはずだ。震災や原発事故で古里や暮らし、なりわいを奪われた被災者の苦痛に立脚し、生活再建や産業再生などに不可欠な財源がたとえ一部であったり、期限延長によって総額は確保されたりしたとしても、次元の異なる防衛費に回されること自体に違和感がある。
期限の延長は事実上の増税につながる。被災地だけでなく、納税者である国民の理解や納得を得る過程を踏まずに検討が先行すれば、反発は避けられない。震災と原発事故発生から11年以上が経過し、風化が懸念されている中で、復興支援への機運や人心が損なわれる事態も危惧される。
本県は2025年度の第2期復興・創生期間後の財源確保という大きな課題を抱える。県とともに本県関係国会議員らも被災地の実情を訴え、復興が滞ることがないよう政府への働きかけを強めてもらいたい。(五十嵐稔)
からの記事と詳細 ( 【防衛費に復興財源】被災地見えているか(12月14日) - 福島民報 )
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