穴水、志賀 長期的な視野で寄り添い
能登半島地震の被災地では、傾聴に特化して被災者の心をケアする宗教者「臨床宗教師」が活動している。相手の価値観を理解し、被災者を支える専門家だが、石川県内には3人しかいない。このうちの1人、北原麻由子さん(53)=七尾市=は、さまざまな悩みに耳を傾ける「移動喫茶」を初めて開くなど長期的な視野で寄り添っている。(小林大晃)避難所になっている石川県穴水町さわやか交流館プルートの一角に「Cafe de Monk(カフェ・デ・モンク) ホッと居て」と書いた看板が立った。ケーキやコーヒーが用意され、北原さんらが避難者とテーブルを囲む。「文句でも、愚痴でも、黙っていてもいいんです」。僧侶を指す「モンク」と「文句」、「放っといて」の語呂になっている。
臨床宗教師は東日本大震災をきっかけに必要性が指摘され、養成が始まった。東北大などに養成講座があり、高野山真言宗の僧侶である北原さんも東北大の養成講座を修了。熊本地震の被災地で研修もした。
移動喫茶は地元出身の北原さんが仲間を募り、個人的に企画。同じ東北大の養成講座の修了生らとともに被災者に向き合う。地震から5カ月近く、避難所から仮設団地に移る被災者が増えつつある中で「地震直後の張り詰めた状況から緩んだ時にその人の本当の悩みや不安は表れる」という。
同県志賀町では、町内で傾聴カフェ「夢小屋23」を主宰する真宗大谷派僧侶の臨床宗教師、松本二三秋さん(75)が、中部臨床宗教師会と連携して3月下旬に移動喫茶を始めた。東海3県(愛知、岐阜、三重)のチームが入れ替わりで応援に入っているが、奥能登は「距離があり、宿泊場所も限られ、東海地方からの行き来が難しい」(北原さん)という。
中部臨床宗教師会にとっては大規模災害で本格的な活動は初めて。浄土宗僧侶の坂野大徹会長(64)=津市=は「継続して開き、顔なじみにならないと心の裏を吐露するまでには至らない」と指摘。傾聴は「悩みを自分自身で解決していく『気づき』を与えるもの。長いスパンで取り組む必要がある」と見据える。
穴水町の移動喫茶は6月8日にもプルートで開かれ、以降は町内の仮設団地でも実施する考え。志賀町富来の仮設団地「とぎ第2団地」でも、6月2日から松本さんと中部臨床宗教師会が定期開催する。
【メモ】臨床宗教師 2011年の東日本大震災を契機に養成が始まった宗教者による心のケアの専門職。寺院や教会に属さず奉仕する欧米の聖職者「チャプレン」をモデルとし、布教や伝道は目的としていない。12年に東北大で養成講座が開設され、現在は上智など他大学にも講座がある。16年に日本臨床宗教師会が発足し、18年には資格認定制度も創設された。
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