海 神(わだつみ) 染井 為人 著
東日本大震災の後、被災した家屋から金品を盗む、いわゆる「火事場泥棒」が相次いだ。被災地への復興支援をかたる詐欺行為も目立った。本書は、復興支援を掲げて被災者をだまし、公金を私物化していたNPOが登場する長編小説。震災から10年後、三陸の架空の島で見つかった金塊を巡る謎を軸に、心の闇を抱えたNPO関係者、信頼を裏切られて傷つく島民やボランティアらの織り成す人間模様を描く。
2021年3月11日、三陸の離島・天ノ島の子どもが海岸で金塊入りのアタッシェケースを拾った。島にはマスコミが押し寄せたが、島民の表情は晴れない。彼らには震災後、島で復興支援活動をしていたNPOに多額の復興支援金をだまし取られた苦い思い出があった。事件が明るみに出た後、一部のマスコミはNPOを無条件で信頼していた島の姿勢も非難。島民の多くがマスコミ不信に陥っていたのだった。
物語は金塊が見つかった21年、震災直後の11年、NPOの不正が明るみに出た13年の三つの時を、島民の女性、島出身の新聞記者、災害ボランティアで島を訪れた若い女性の3人の視点でつづる。話が進むにつれ、金塊の持ち主は、NPOの実態は、といった謎が明らかになる。
本書で描かれる不正は、岩手県で実際に起きた事件を下敷きにしている。不正の内容やだましの手口はほぼ現実通り。周囲を感化する能力にたけた人物が悪意を隠して被災者に近寄り、信じ込ませて操り人形のようにしていく恐ろしい過程を、まざまざと浮かび上がらせている。
物語の随所に、亡くなった人が親しい人らを導く心霊現象の話題が差し込まれる。生者はだまされ、迷うが、死者にはそれがない。人知を超え、神聖性を帯びた存在として描かれており、タイトルの「海神」とのつながりを意識させる。(矢)
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光文社03(5395)8116=1980円。
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